福岡法務局そばの矢野・いなほ司法書士事務所です。今回は問い合わせの多い権利証(登記識別情報)を紛失した場合について。ご案内いたします。

1.権利証はどんな時に必要?

 一般的に権利証と呼ばれるものは、相続や売買の登記が終わった後に法務局から交付される書類のことです。平成17年以降は登記識別情報という書類がそれにあたります。この権利証(登記識別情報)は、

  • 不動産の売買の登記
  • 不動産の贈与や財産分与の登記
  • 抵当権や根抵当権の設定の登記
  • 一部の抵当権や根抵当権の変更の登記

などを申請する際に必要になります。

2.相続登記の申請に権利証は必要?

 相続登記を申請する際には権利証(登記識別情報)は不要です。ただし、亡くなった方の登記記録上の住所と、最後の住所がつながらない場合に、権利証を提出する場合があります。

3.権利証の表紙ってどんなもの?

 権利証は、登記を申請した後に法務局から交付される書類ですが、一般的には代理人として申請した司法書士事務所が作成した表紙に、持ち主の名前や物件の表示がされていることが多いです。なお、司法書士を通さずに自分で登記をした場合などには表紙がなくむき出しのまま保管されていることもあります。

4.権利証の中身に違いはあるの?

 かつて、所有権移転登記などが終わって法務局から交付されていた書類は、「登記済証(とうきずみしょう)」と呼ばれていました。その当時に申請書に書いてあったものと同じ内容の書類に、法務局のハンコが押してあるものです。そして、このハンコには、登記済である旨やハンコを押した法務局、申請された年月日と受付番号が記録されています。(画面右側)

 この「登記済証」は、平成17年ごろから順次「登記時期別情報通知(とうきしきべつじょうほうつうち)」という形式に変わりました。薄緑のA4の紙で、下の方に目隠しシールが貼ってある用紙です。なお、このシールの下には数字とアルファベットの暗号が書かれていて、この暗号によって登記申請がオンラインでしやすくなりました。(画面左側)

 さらにこの「登記識別情報通知」は、平成27年5月に新しい様式に変わりました。目隠しシールによって文字の部分が読めなくなるなどのトラブルなどもあったせいだと思うのですが、シールではなく、紙によって目隠しにしているものです。この登記識別情報通知は令和5年現在でも使われているものです。(画面右側)

5.権利証を紛失したら登記できないの?

 権利証を紛失しても、再発行をするということはできません。権利証を求められる登記の申請の際に権利証がない場合には、法律上は大きく分けて3つの方法があります。

5-1.事前通知による方法

 一つ目の方法は事前通知です。これは、権利証が提出できない場合、登記の申請を受けた法務局から登記名義人の住所地にあてて、登記の申請があったことと、その申請の内容が真実であるときは2週間以内にその旨の申出を申し出てください、という通知を発送します(本人受取限定郵便)。この通知に実印を押して「あの登記にまちがいはないですよ」という返信がを法務局が確認して権利証の替わりにするという方法です。

 この方法は、費用がかからないという点ではメリットですが、2週間以内に返信がないと申請が却下される危険性があるため、売買や抵当権の設定など、相手方がいる場合には避けられるケースが多いです。

5-2.司法書士などによる本人確認情報

 二つ目は、司法書士や弁護士などの資格者代理人が作成する本人確認情報を提出する方法です。これは、司法書士や弁護士などが名義人本人(または会社の代表者など)と面談して名義人の方の話を聞き、さらに免許証、マイナンバーカードなどの書類と照らし合わせて本人であるこを確認し、その確認した書類を権利証の替わりとして法務局に提出する方法です。

 この方法は、売買や抵当権の設定などの際には最も一般的な方法ですが、身分証(免許証、マイナンバーカード等)を持っていない方は利用できなかったり、費用も高額になるケースもあるなどのデメリットもあります(ちなみに、当事務所では3万円+消費税で請求することが最も多いです)。

5-3.公証役場による本人確認情報

 三つ目は、公証役場が作成した本人確認情報を提出する方法です。これは、各公証役場に名義人の方が出頭して、司法書士等が作成した委任状に公証役場で認証してもらうというもので、少しずつではありますが、利用されるケースの増えているものです。必要書類等としては、

  • 司法書士等が作成した委任状(物件が明記されたもの)
  • 印鑑証明書(発行後3か月以内のもの)
  • 物件の登記簿謄本(全部事項証明書)
  • 顔写真付きの身分証(免許証、マイナンバーカード等)
  • ご実印      などを持参する必要があります。

 この方法のメリットは、費用が安い(通常は1件3500円程度)ことですが、名義人本人が実際に公証役場に出頭する必要があるため、近くに公証役場がない、公証役場に行くのが困難といった場合には使いにくいです。また、公証役場による本人確認情報は名義人の側が一方的に作成することも可能ではありますが、この方法は某地面師の事件で悪用されたものでもあるので、相手方や関係者の同意の上で作成されることをおすすめします。

  メリット デメリット
事前通知 費用がかからない 却下されるリスクがある
司法書士等による本人確認情報 確実性が高い 費用がかかる(数万円程度)
公証役場による本人確認情報

費用が安い

あらかじめ書類を準備して、公証役場に出頭する必要がある

6.権利証は見つからないけどすぐには使わない場合。

 たとえ権利証が盗まれたとしても、実印や印鑑証明書の管理が万全であるならば、不正な目的で登記されることは難しいと言えます。しかし、万が一の場合に備えて法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得して、内容を確認することをおすすめします。

 場合によっては登記識別情報を失効させたり、不正登記防止申出といって、何らかの登記がされたときに法務局から通知をしてもらうという方法も必要になってくる場合もありますので、権利証、登記識別情報の件でご相談がおありでしたら矢野・いなほ司法書士事務所(092-721-0236)までご連絡ください。

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