1.「通称(つうしょう)」って何?
福岡法務局そばの矢野・いなほ司法書士事務所です。 本日はお問い合わせのあった「通称」についてご案内します。
平成23年7月9日から、外国人住民に係る住民基本台帳制度が始まりまして、以下のような方も住民基本台帳制度の対象となり、市区町村で「外国人住民に係る住民票」が作成され、住民票の写しを交付されるようになりました。
- 中長期在留者 ( 在留資格が「日本人の配偶者等」や定住者、在留資格が「技術・人文知識・国際業務」の方,技能実習生,留学生や永住者の方)
- 特別永住者 ( 入管特例法により定められている特別永住者の方)
- 一時庇護許可者又は仮滞在許可者
- 出生による経過滞在者又は国籍喪失による経過滞在者
この「外国人住民に係る住民票」の中には、外国住民特有の記載事項がありますが、その中のうちの一つが、氏名とは別に登録できる「通称」です。この場合の「通称」とは、外国人が日本での社会生活をするうえで日常的に使用している本国名以外の「呼称」のことです。これは、特に長期的に日本で暮らしている外国人が日常的に「通称」を使うことが多いため認められている取扱いで、市区町村役場に申し立てることによって登録できます。もちろん、どの国籍の外国人にも認められています。
ただし、登録できる通称は1つだけ、使える文字は日本の戸籍に記載される文字、漢字とひらがなとカタカナのみですので、アルファベットや簡体字、繁体字、ハングル等での通称は認められていません。
参照:総務省ホームページ 外国人住民に係る住基台帳制度
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/zairyu/resident_record.html
2.通称の登録って?
通称の登録の申立ては、市区町村役場に申請します。この時にその通称が、「 日本での生活で通用していること」や「居住関係を証明するために通称が記載される必要性」について証明する必要があります。
なお、申立ての方式やその後の取扱い等は、市区町村によって違いがありますので、詳しくはお住いの市区町村役場にご連絡ください。
3.通称で不動産登記はできるの?
結論から先に申し上げますと、「通称」だけの登記は問題なくできます。
市町村役場で登録されている通称ならば、登記することは可能です。なお、本国名で登記されているものを「通称」に更正登記をしたり、住民票の通称を変更した場合に、すでに登記していた「変更前の通称」を、「変更後の通称」に変更する登記を認めた先例もあります。(登記研究423号、582号)
ただし、注意していただきたいのは、登記義務者として印鑑証明書だけを提出して登記申請する際に、外国人の方の「氏名のみで通称の記載がない」印鑑証明書が交付されるケースです。そのようなときは、印鑑証明書だけでなく、別途「通称の記載のある住民票」を提出して、通称での登記を申請する必要があります。
4.通称で商業登記はできるの?
不動産登記だけでなく、会社や法人などの商業登記でも取締役や監査役、理事や監事などの役員の氏名を登記する場合があります。この商業登記の場合でも不動産の登記と同じように、役員を通称で登記することが可能です。
ただし、これも不動産登記と同じですが、「氏名のみで通称の記載のない印鑑証明書」などを提出した場合に、「通称の記載のある住民票」の提出が求められることがある点、ご注意ください。
5.日本に帰化したら、通称は使えるの?
帰化の手続きをして日本国籍を取得すると、新しい日本の戸籍が作られます。この帰化の申請の際に、日本人としての名前を登録するわけですが、この日本人の名前として今まで使っていた通称を登録することもできます。ただし、帰化の申請が認められて日本人となると、日本人と扱いが同じになるので、特例として認められていた住民票の通称の欄がなくなります。つまり、帰化をすると「氏名」と「通称」の両方が認められていたのが、「氏名」だけしかなくなるということです。
また、一度決まった氏を変更するには「やむを得ない事由」があり「家庭裁判所の許可」が必要です(戸籍法第107条)。この場合の「やむを得ない事由」とは、「氏の変更をしないとその人の社会生活において著しい支障を来す場合」をいい、手続きも簡単ではないため、帰化の申請の際には、氏名について十分に考えてから決めてください。