福岡法務局そばの矢野・いなほ司法書士事務所です。令和2年度の司法書士試験の筆記試験でも登場した「保証意思宣明公正証書(ほしょういしせんめいこうせいしょうしょ)」についてご案内いたします。

1.民法改正で保証が変わりました。

 今回の民法の大改正によってさまざまな民法のルールが変更しましたが、大きな変更があった項目のなかに「保証」があります。以下、改正点について簡単に列挙しますと、

  • 極度額の定めのない個人の根保証契約を無効とすること
  • 公証人による事業用保証の意思確認制度
  • 保証人になるよう依頼する際の情報提供義務
  • 債権者が保証人に主債務の履行状況を提供する義務
  • 主債務者が支払いを遅滞した場合など、期限の利益を喪失した場合の保証人への報告義務    などです。

 保証人になったことによって、自分では抱えきれない責任を負わされ、破産や夜逃げをする、最悪の場合には命を落とすといった事例は後を絶ちません。また、契約した保証人だけでなく、保証人の相続人であるお子さんにもその責任がのしかかってきて破産にいたるというケースもあります。こういった事例は、特に「事業用の融資」の保証人として、「個人」がなる場合に深刻な事態を招きやすい傾向にあります。

 今回の民法の改正では、十分な情報提供も受けないままに保証人になってしまい、非常に重い負担を強いられる個人の保証人の状況を改善することに重点が置かれています。

2.「保証意思宣明公正証書」って?

 令和2年4月から始まった「保証意思宣明公正証書(ほしょういしせんめいこうせいしょうしょ)」という制度は、これまでの保証制度の問題点を改善するために作られた制度です。

 新しい民法では、事業用融資について保証人となる人が、契約前1か月以内に、公証役場で、「保証意思宣明公正証書」を作成しておかないと、保証契約の効力が生じないとしています。保証契約の前に、公証人が、保証人となる方と面談して、その方が保証契約の内容や保証人になることのリスクについて理解したうえで、それでも保証人になるのだという意思をしっかりと確認して、さらに公正証書の形にしておかないと、保証契約の効力を認めないことにしたのです。 

3.どういう時に公正証書が必要なの?

 この「保証意思宣明公正証書(ほしょういしせんめいこうせいしょうしょ)」が必要な場合とは、以下のような場合に必要です。(民法第465条の6、第465 条の 8参照)

  • 事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約を締結する場合
  • 主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約を締結する場合
  • これらの契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約  

 ただし、今回の民法改正の目的は、保証人の保護に重きを置いていますが、融資という社会活動そのものを規制するためのものではありません。個人の生活や企業活動もさまざまな形の融資によって支えられています。簡単に言いますと「個人の保証人の保護」「保証を利用した融資の確保という社会的要請」という二つの要請のうち一方を完全に否定しているわけではなく、できるだけ両立させようとしているわけです。したがって、「保証意思宣明公正証書」は全ての保証契約に必要なわけではありません。

「保証意思宣明公正証書」は、保証人が「個人」で「事業性のある貸金等債務」である保証契約の場合に求められています。したがって、保証人が法人の場合であるとか、事業性のない、住宅ローンや、教育ローン、居住用物件の保証契約などの場合にも不要です。

「保証意思宣明公正証書」の対象外
保証人が個人ではない 事業性がない
保証人が会社の場合は不要

・住宅ローン ・教育ローン ・借家やマンションの賃貸借契約 ・奨学金 

などの保証契約の場合には不要

 

4.公正証書の例外規定って?

 上記の場合以外に、「保証意思宣明公正証書」が要らないケースがあります。これは、保証をしてもらう主たる債務者が、法人である場合と、個人である場合とで異なります。

主たる債務者が 保証人予定者が
法人のときで その法人の理事・取締役等ならば不要
その法人の総株主の議決権の過半数を有する株主ならば不要
個人のときで その事業の共同事業者ならば不要
その事業に現に従事しているその配偶者ならば不要

 保証人がそもそも会社の取締役や株主、共同事業者などの立場で会社の経営に関与しているようなケースならば、事情を理解せずに保証人になるというようなことは少ないであろうということで、公正証書の作成は不要となっています。(いわゆる経営者保証(民法第465条の9②、③))。

 なお、令和2年の司法書士試験の筆記問題で、登記と関連付けて、会社の事業用の借入について、会社の唯一の取締役が保証人の予定者となるという設問がありましたが、これはまさにこの条文の例外規定について問うものでした。

5.公正証書はどうやって作るの?

  「保証意思宣明公正証書(ほしょういしせんめいこうせいしょうしょ)」は公証役場に保証人となる予定者の方が出頭する必要があります。費用は保証契約1件につき1万1,000円です。また謄本を請求する場合に250円の費用がかかります。

 なお、福岡県内の公証役場は以下の通りです。ご参考ください。

公証役場

所在地

福岡

福岡市中央区舞鶴3-7-13 大禅ビル2階

博多

福岡市博多区博多駅前3-25-24 八百治ビル3階

久留米

久留米市中央町28-7 明治通3丁目ビル

大牟田

大牟田市不知火町2-7-1 中島物産ビル5階

小倉合同

北九州市小倉北区大門2-1-8 コンプレート西小倉ビル2階

八幡合同

北九州市八幡西区黒崎3-1-3 菅原第一ビルディング3階

田川

田川市千代町8-46

直方

直方市新町2-1-24

飯塚

飯塚市川津406-1 丸二ビル1階

行橋

行橋市行事4-20-61

筑紫

太宰府市都府楼南5-5-13

参照:日本公証人連合会 「保証意思宣明公正証書」のページ

https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow05_2

 今回の「保証意思宣明公正証書」のような民法改正の論点だけでなく、融資に関するさまざまな登記や法律上の手続きについて、疑問に思う点などがありましたら、当事務所にご相談ください。

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