疑惑のマスク「謎の4社目」に浮上した関連企業 野党側「なぜ随意契約」政府「問題なし」

衆議院予算委員会で4月28日、政府が妊婦向けに配布した布マスクをめぐり、非公表だった「4社目」として突如、会社名が明らかにされた福島市の企業「ユースビオ」を巡る質疑があった。

大串博志議員(立憲)の質問に答弁した加藤勝信厚生労働相は、随意契約として問題はなかったとの認識を繰り返し示した。

(中略)

大串議員は、3月に契約を結んだ段階でのユースビオの法人登記簿では、

・再生可能エネルギー生産システムの研究開発・販売
・バイオガス発酵システムの研究開発・販売
・オリゴ糖の糖質の生産・加工・販売

などを目的とする一方、「マスクの生産・輸出入」については明記されていない、と指摘。

しかし、同社の登記簿上では4月に入ってから「貿易および輸出入代行業ならびに、それらの仲介およびにコンサルティング」が加わったといい、「それを知らないで契約したのか」と質問した。

加藤厚労相は「輸出入をするもう一つの会社と一緒になって契約額が5.2億円。輸出入に関しては、その会社が担っていると聞いております」と答弁し、こう述べた。

「(その会社とは)シマトレーディングという会社であって、ユースビオはマスクの布の調達、納期時期などの調整、シマトレーディングは生産・輸出入の担当をしていたと聞いている」

引用元:BuzzFeed News

https://www.buzzfeed.com/jp/kensukeseya/yutobio-1

 福岡法務局そばの矢野・いなほ司法書士事務所です。いわゆるアベノマスクに関する今日の国会の質疑で、商業登記の登記情報についての話題があったので、少し書いておきたいと思います。

1.商業登記は誰が見てもいいの?

 今回のマスクの配布に関わった関連企業の名前のうち、非公表だった会社の名前が公表され、しかも、公表された時に調べてみようにも、会社の登記記録が取得できないということで、なぜそのようなことになるのか、ということで一部で疑問視されていたようです。当事務所にも問い合わせがあったのですが、まず、登記情報(いわゆる登記簿謄本)は誰でも取得が可能です。法務局の窓口や、郵送、オンラインなどの方法によって取得します。

2.なぜ取得できなかったの?

 報道等がなされてから数日間、この会社の登記記録を取得しようにも、取得できない状態が続いていたようです。4月10日に変更登記を申請していたようでして、マスク配布の関連会社として公表された4月23日の時点では、法務局での処理中であったため、登記情報が取得できなかったようです。24日には取得できるようになったようですが、福島地方法務局の登記の完了予定日は(新型コロナウイルスの感染者も少ない地域なので)、2週間ほどで完了するようですので、法務局での処理は適正だったと思います。

参照:福島地方法務局の完了予定日

http://houmukyoku.moj.go.jp/fukushima/static/HP.htm#RANGE!A40

3.目的の変更登記って?

 会社の定款や登記情報には必ず、「目的」が記載されています。たとえば、自動車会社ならば目的として「自動車の製造」、パン屋さんなら「パンの製造及び販売」、コンビニの会社なら「コンビニエンスストアの経営」などです。その会社がどのような業務を行っているか、他の人にも分かるようにしているわけです。

 また、産業廃棄物の運搬の許認可を得ようとするならば、「産業廃棄物の収集及び運搬」。労働者派遣の許認可を得ようとするならば、「労働者派遣事業」など、官公署に提出する前に、あらかじめ目的を記載されていることが求められる場合もあります。

 この会社は4月1日に目的を変更したとして、4月10日に変更登記を法務局に申請しているようですが、マスクの輸入という実際の業務は4月1日以前にすでに行っているわけでして、登記が会社の実情を反映していませんので問題があると言えるでしょう。

 ただし、目的に書かれていない事業を行ったら、即刻ペナルティを負うのかというと、そこまではないので、実務上では、登記されていない事業を行っていても、目的の変更漏れに気づいた後に、事後的に登記上の目的を追加してフォローするということは、ありがちなことです。

 今回の事例では、一般の会社としては、その「ありがちな」パターンだといえます。しかし、国民の健康に直結する政策に関わる随意契約の、数億円の仕事を請け負う企業の登記ですから、正確を期していただきたいものです。

4.目的の変更登記を忘れずに。

 会社の目的を変更は、変更してから2週間以内に法務局に登記もしなければならない重要な事柄です。登記簿を見て「この会社は何をしているのか?」を公示している看板のようなものですので、他人が見ても誤解が生じないように記載する必要があります。商業登記はその会社の実情を公示するための制度ですから、会社の現在の状況と登記が異なるというのは、望ましい状態とは言えません。事業の拡大や、縮小を考える節目節目で「現在の仕事」と「登記の内容」を照らし合わせてみるのが理想的です。

 司法書士は商業登記の専門家です。登記に関してご質問がありましたら、当事務所にご連絡ください。