福岡法務局そばの矢野・いなほ司法書士事務所です。本日は成年被後見人所有の不動産の売買における登記識別情報についてご案内します。
1.成年被後見人の居住用不動産の売買
認知症、精神障害などの理由でご本人に成年後見人が選任されている場合、成年後見人がご本人(成年被後見人)の居住用の不動産の処分するには家庭裁判所の許可が必要です。(民法859条の3)
成年後見人にはご本人の財産管理について権限が与えられていますが、これは無制限ではなく、居住用の不動産の処分に関しては、あらかじめ家庭裁判所の許可が必要であると法律で定められています。もし、成年後見人がご本人の居住用不動産を家庭裁判所の許可なく売却してしまった場合、その売買は無効になります。また、売買による所有権移転登記の際にも「家庭裁判所の許可書」を法務局に提出しなければなりません。
なお、この規定は「居住用」であることが要件になっています。この居住用というのは①現に居住している不動産、②将来居住する予定のある不動産、③以前生活の本拠として居住したことがあり、将来本拠として居住する可能性がある不動産などは、この「居住用」の不動産とされています。
逆に、居住ではない不動産の処分の場合(他人に賃貸に出していたり、農地や山林の場合)には家庭裁判所の許可は不要です。
参照:裁判所ホームページ 居住用不動産処分の許可の申立てについて
https://www.courts.go.jp/wakayama/koukensite/sonota/hudousanshobun/Vcms4_00000133.html
2.居住用不動産の売買の登記必要書類
ご本人の居住用不動産の売買について、家庭裁判所の許可が得られた後、売買の登記には以下のような書類が必要です。
- 登記原因証明情報
- 後見人の印鑑証明書
- 後見登記事項証明書または後見人の選任審判書
- 家庭裁判所の売却許可決定書
- 後見監督人がいる場合には後見監督人の同意書・印鑑証明書
- 司法書士等の代理人に委任する場合には委任状
また、司法書士が代理をする場合には、司法書士が、本人の確認のために免許証や保険証、マイナンバーカードなどの提示をお願いすることがあります。
3.家庭裁判所の許可と登記識別情報。
通常の不動産の売買の登記の場合、「登記識別情報(登記済証、権利証)」が必要となることが原則ですが、成年被後見人の居住用不動産の売買で、家庭裁判所の許可書を提出する場合には、登記識別情報の添付が不要という扱いになっています(『登記研究』第779号 P.119 カウンター相談)。
この「カウンター相談」の中では、「登記識別情報の提供を求める趣旨は、登記の申請が登記義務者の真意に基づくものであることを担保するということにあり、裁判所から選任されたものが裁判所の許可書を添付して申請した場合には、虚偽の登記の申請のおそれがないと考えられる」という説明をしています。実際に、当事務所も、今回と同じケースにおいて法務局から登記識別情報の提出を求められたことはありません。法律や先例で決まっているものではないですが、実務上は不要ということです。
成年後見制度や不動産に関するご質問がありましたら、当事務所(電話092-721-0236)までご連絡ください。