1.日本の不動産を外国人は買えるの?

 ここ数年の間に日本の国際化は浸透し、地方都市でも国外からビジネスや旅行で来日されたり、日本の在留資格を取得して日本に暮らす方々がよく見られるようになりました。出入国在留管理庁の発表によりますと、2022年現在の在留外国人は307万5213人にのぼるそうです。

 もちろん、そういった方々の中には、ビジネスや生活のために日本の不動産を購入する方もいらっしゃいます。日本の法律では、かつては「外国人土地法」などにより外国人による日本の不動産売買の制限はありましたが、昭和20(1945)年に撤廃されています。なお、令和3(2021)年に成立した「重要土地利用規制法」により、自衛隊の基地や原子力発電所、国境付近の離島など特殊な地域の半径1キロ圏内の土地の売買についての規制がありますが、その範囲は限られており、それ以外のほとんどの不動産については、原則として、外国人も日本人と同じように自由に売買することができます。

2.外国人が買主になるときの書類は?

 不動産の買主となる登記を申請する場合には、買主の住所を証明するための書類が必要です。外国人が不動産の買主になる場合には、立場によって用意する住所を証する書類に違いがあります。

 まず①中長期在留者( 「日本人の配偶者等」「定住者」「技術・人文知識・国際業務」等の在留資格を持っていらっしゃる方、技能実習生,留学生や永住者 )などの方の場合。これらの方々は日本に住民票がありますので、日本人と同じように住民票を提出します。

 次に、②海外に居住している外国人や、短期在留者の場合。その方の所属する国の公証人や、駐日の領事館で認証された宣誓供述書などを使います。(たとえば、アメリカの方だと 「AFFIDAVIT」、 中国大陸の方だと「公证书」、香港の方だと「聲明」と書かれた宣誓供述書が多いと思います。)

 なお、 韓国の「住民登録証明書( 주민등록증 )」や台湾の「戸籍謄本」など、住民登録制度のある地域の書類ならば、日本でも住所証明書として使用可能です。

 また、③海外に在住の日本人の方の場合でも、日本に住民票がないならば、 現在居住している国の日本領事館もしくは大使館で発行された在留証明書や、公証人の認証による宣誓供述書を住所証明書として提出することになります。またこの場合、日本に帰国中に日本の公証役場で証明をしてもらうこともできます。

 なお、司法書士による本人確認をするため、在留カードや、パスポートなどを提示して、本人確認をする必要もあります。

3.外国人の名前はどう登記されるの?

 例えば、日本の在留資格を取得している在留外国人の方の場合、在留カードの氏名の表記は基本的にパスポートに記載された「ローマ字(アルファベット)」で表記されています。漢字圏の方の場合には、希望すれば「漢字+ローマ字(アルファベット)」という表記も認められています。住民票の表記も在留カードの記載に倣うとされていますので、 「ローマ字」 または 「漢字+ローマ字」 という表記です。

 しかし、登記記録上は、人名を登記するのに「ローマ字」は認められておらず、原則として「漢字」、「ひらがな」、「カタカナ」のみですので、外国人の氏名もアルファベットをカタカナにしてから登記されます。またスペースをあけることもできませんので、全部つなげてしまうか、 「 • 中点」 で区切ることになります。

外国人の名前の表記(例外もあり)

在留カード 住民票 登記記録

原則:ローマ字

(姓→名→ミドルネームの順)

原則:ローマ字

(在留カードの表記と同じ)

原則:カタカナ

(ローマ字、スペースの使用不可)

例外:漢字圏の場合には漢字+ローマ字も可

例外:漢字圏の場合には漢字+ローマ字も可

例外:漢字圏の場合には漢字表記も可

 たとえばアメリカ人で「 Donald John Trump 」という方の場合。在留カードでは、姓→名→ミドルネームという表記となりまして「TRUMP DONALD JOHN」と印字されているはずで、住民票も同じ表記だと思います。彼が日本で不動産を購入して登記をする場合には、登記記録ではアルファベットは認められませんから、カタカナに直して、 「トランプドナルドジョン」と登記できます。 さらに「 • 中点」をつけて「トランプ・ドナルド・ジョン」とすることもできます。また、ミドルネームを省略して「トランプ・ドナルド」とすることも可能です。

 漢字圏の外国人の方の場合、在留カードの氏名は、「ローマ字」に「漢字」を加えて登録することができます。(ただし、同じ漢字文化圏でも中国大陸の簡体字や、台湾や香港の繁体字は日本の正字に直して記録されます。)たとえば「张艺谋 」という大陸の方の場合には、在留カードや住民票を「張芸謀 ZHANG YIMOU」と登録しておけば、不動産登記をする場合にも「 張芸謀 」とすることが可能です。また、韓国の方も漢字名を登録することは可能です。

 なお、実務上、外国人の方の住民票の表記は在留カードに合わせていますので、在留カードに漢字を登録していないのならば、住民票もローマ字(アルファベット)のみです。この場合、住民票のみ漢字を登録しようにも、先に在留カードの変更が求められることもありますので、あらかじめ在留カードの名前を変更してから、住民票の変更をされることをおすすめします。

4.外国人が不動産を買う時の税金は?

 日本国内の不動産を購入する場合、以下の税金を支払う必要があります。

  1. 印紙税
  2. 登録免許税
  3. 不動産取得税

これらの税金の支払い義務は、買主の方が日本人であろうと外国人であろうと変わりません。また、不動産の購入後には、

.固定資産税等

の納付も必要になります。日本に居住されない外国人の方が不動産を購入した場合には、本人の代わりに不動産の保有や売却に係る税金の申告や納税の手続きを行う「納税管理人」を選任して、購入した不動産を管轄する税務署長に「納税管理人届出書」を提出してください。

さらに、日本に居住されていない方や外国法人から、日本に居住されている方が日本の不動産を購入した場合の源泉徴収義務や、日本に居住されていない方との間の不動産取引を行った場合の「外国為替及び外国貿易法(外為法)」上の報告義務などの特別の手続が必要な場合がありますのでご注意ください。

5.不動産の売買の際の注意点は?

 登記手続上、注意していただきたいのは、「登記識別情報(権利証)」の保管です。売買が成立して所有権移転登記が完了しますと買主の名前の記入された「登記識別情報」が交付されます。この「登記識別情報(権利証)」を、再度売却する場合などに使用しますが、これを紛失した場合、再発行はされません。日本人の場合ならば、再度不動産を売却する際には、「事前通知」や「本人確認情報の作成」によって対応する必要がありますが、外国人の方、特に「在留カード」や「特別永住者証明書」なども持っていないような外国人の方の場合には、「本人確認情報の作成」の方法がとれず、最悪の場合には、不動産を売却できないケースも想定されます。それだけに「登記識別情報(権利証)」の重要性を理解していただき、大切に保管するようにお願いしています。

 また、外国人の方との売買の際にネックになりやすいのが、お金の受け渡し方法です。外国人の場合、永住権等をお持ちの方でないと、銀行からの住宅ローンなどの融資を利用することは難しいのが現状ですので、売買の際には、海外からの送金による代金の授受となるケースが多いです。この場合には、その送金の方法や費用、送金元の国で必要な為替法上の手続きや、送金にかかる時間など、条件や確実性などを事前にチェックしておく必要があります。

 最後に、これは登記だけに限りませんが、外国人の不動産売買でのトラブルの原因をつきつめていくと、コミュニケーション不足や初歩的な誤解によるものが多いという印象を受けます。もちろん、言葉の違いもあるでしょうが、お互いが「これは常識だろう」と思っていたことが、他の国では通用しないという文化的な違いに起因するケースがたくさんあります。不動産の売買は、多くの方にとって一生に一度あるかないかの大きな買い物です。外国人の方にとっては、日本人の方の場合以上に重大な出来事であるとも言えます。それだけに、外国人の不動産売買では、日本人同士の場合よりも、さらにきめの細かい配慮や説明が求められます。

 外国人の不動産売買に限らず、不動産登記についてご質問等がございましたら、当事務所092-721-0236までご相談ください。

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