1.遺言書保管制度スタート!

 福岡法務局そばの、矢野・いなほ司法書士事務所です。法務局で遺言書を預かる「遺言書保管制度」が始まってから、一ヶ月が経過しました。当事務所でも問い合わせが続いていまして、関心の高さが伺えます。ただし、新型コロナウイルスの感染拡大防止のためもあるのでしょうが、スタート当初から予約を取りにくい状況が続いていまして、現在でも自由に予約できる状況とまでは言えないようです。今回は、ご質問の多い点を中心に、「遺言書保管制度」についてご説明しようと思います。

 

2.なんで保管制度が始まったの?

 少子高齢化や人口減少が進む中、現在ある財産を次の世代に引き継ぐ必要性は、ますます大きくなっています。また、相続トラブルも増えるなかで、遺言によって確実な形で財産を次の方に託そうとする方も増えています。遺言書を作成する場合、最もポピュラーなものとして二つの方法があります。一つが個人で遺言を書いておく「自筆証書遺言」、もう一つが公証役場で作成する「公正証書遺言」です。ところが、この二つの制度にはそれぞれ長所と短所がありまして、それが「遺言の書きにくさ」の原因となる場合もありました。そこで、遺言書をより多くの方が利用できるように、二つの制度の長所を活かし、短所を補うような形で作られたのが、今回の「遺言書保管制度」です。

3.自筆証書遺言って?

遺言書

 まず、遺言の中でも、もっともシンプルな遺言が「自筆証書遺言」です。読んで字のごとく、「自分の筆で書く遺言」ということです。条文では「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。 (民法第968条)」とありまして、全文と日付、署名を自筆で書いて、印鑑を押すとしています。パソコンで打ち込んだものやコピーでは認められません。

 また、自筆証書遺言の場合、書いた方が亡くなってから家庭裁判所で「検認」という手続きを取らなければなりません。この「検認」の申立てには書類の作成や戸籍の取得も必要ですし、原則として相続人の全員の出席が求められます。期間も一ヶ月ほどかかってしまいますので、ご遺族の皆様にとってはかなりの労力の負担になってしまいます。また、紛失してしまったり、忘れてしまったりして、そもそも自筆証書遺言が発見されず、せっかく書いた遺言が全く活用されないというケースもあります。

「自筆証書遺言」のメリットとデメリット
メリット デメリット
費用がかからない 内容が法律上正しいか判断しにくい
自分で自由に書ける 全文を自分で書く必要がある
自分で自由に処分できる 遺言が発見されない可能性がある
手軽に書ける 「検認」という手続きが必要になる

4.公正証書遺言って?

遺言公正証書

 公正証書遺言というのは、公証役場で作成される遺言です。公証人が遺言書の内容をしっかりと確認したうえで文章にまとめて作成します。自分で書く必要もないですし、病院に入院中であっても、公証人に出張して作成してもらうことも可能です。もっとも確実性の高い遺言で、自筆証書遺言で求められる「検認」の手続も不要ですから、ご遺族の方の負担も少ない遺言と言えます。

 ただし、公正証書遺言の場合、まず費用がかかることや証人2人(相続人はなれません)が出席する必要もあるなどのデメリットもあります。

公正証書遺言のメリット・デメリット
メリット デメリット
確実性が高い 費用がかかる(数万円~)
自分で文章を書かなくてもいい あらかじめ戸籍等の提出が必要
「検認」の手続が不要 作成時には証人が2人必要
病院などでも出張してもらえる 出張費用は追加で支払う必要あり

5.新しい保管制度はどうなるの?

 自筆証書遺言と公正証書には以上のようなメリットとデメリットがあるんですが、今回の「遺言書保管制度」は、これらのメリットを活かし、同時にデメリットを克服しようとして定められた制度です。

 たとえば 「遺言書保管制度」 では、「自筆証書遺言」のデメリットの一部を解消してくれます。

 「遺言書保管制度」では、遺言書は法務局に保管してもらえるので、遺言書を失くす心配がなくなります。届出をすれば、亡くなったときに相続人に「法務局に遺言書がありますよ」と通知してもらうことも可能です。さらに、自筆証書遺言では後々に負担になる「検認」という手続きも不要です。

 また「公正証書遺言」のデメリットの改善も見込めます。

 今回の「遺言書保管制度」の費用は一件につき3,900円です。さらに証人等も不要ですので、一人で手続きをすることが可能です。

「遺言書保管制度」のメリット
法務局で保管をしてもらえる。
検認の手続が不要。
保管費用は3,900円
証人を集める必要がない。

6.「遺言書保管制度」の注意点は?

 これらのメリットのため、この新しい制度に注目が集まっていますが、同時に注意していただきたい点もあります。

① まず、この制度が「自筆証書を保管する制度」だということです。保管の申し込みをする場合に、「法務局の様式に合わせた」「自分で書いた遺言書」を提出する必要があります。パソコンで打ち込んだ遺言書は認められません。

② また、担当の法務局の職員の方は本人の確認はしますが、「遺言の内容」についてはチェックしてくれません。せっかく保管をしていても、内容が無効な遺言を保管していては意味がありません。できれば一度はわれわれのような専門家に相談して、遺言の内容を確認してください。

③ さらに、「遺言書保管制度」には法務局への予約が必要で、しかも必ず法務局に出頭する必要があります。病院に出張してもらったり、弁護士や司法書士などの専門家や家族に頼んで提出してもらうというようなことはできません。

④ それと、制度が始まってから少しずつ増えていますが、保管制度の申立ての書類の作成が面倒だというご意見があります。申請書がきちんとかけていないと申立てを却下される場合もありますので、その場合には専門家にサポートを依頼したり、あらかじめしっかりと準備をされてください。

「遺言書保管制度」の注意点
担当官は形式だけで「遺言書の内容」まではチェックしない。
遺言書の保管の申立ては予約制。
保管の申立てには、必ず自分で出頭しなければならない。
申立の申請書が適正でないと却下される可能性がある。

7.どこの法務局に申請するの?

遺言書の保管ができるのは、

  • 遺言をする方の住所
  • 遺言をする方の本籍地
  • 遺言をする方の所有する不動産の所在地 の法務局であれば可能です。

福岡県内でこの新制度を取り扱っている遺言書保管所は以下の通りです。

遺言書保管所

管轄区域

〇 福岡法務局 本局 

福岡市中央区舞鶴3-5-25

福岡市 糸島市 古賀市 福津市 宗像市 那珂川市 糟屋郡(宇美町、篠栗町、志免町、須恵町、新宮町、久山町、粕屋町)

〇 北九州支局 

北九州市小倉北区城内5-1(小倉合同庁舎)

北九州市 中間市 遠賀郡(芦屋町、水巻町、岡垣町、遠賀町)

〇 久留米支局 

久留米市城南町21-5

久留米市 小郡市 うきは市 三井郡(大刀洗町)

〇 筑紫支局 

筑紫野市二日市中央5-14-7

筑紫野市 春日市 大野城市 太宰府市

〇 飯塚支局 

飯塚市芳雄町13-6(飯塚合同庁舎)

飯塚市 嘉麻市 嘉穂郡(桂川町)

 

〇 朝倉支局 

朝倉市菩提寺480-6

朝倉市 朝倉郡(筑前町、東峰村)

〇 柳川支局 

柳川市一新町1-9

柳川市 大牟田市 大川市 みやま市 三瀦郡(大木町)

〇 直方支局 

直方市新町2-1-24

直方市 宮若市 鞍手郡(小竹町、鞍手町)

〇 八女支局 

八女市稲富127

八女市 筑後市 八女郡(広川町)

〇 行橋支局 

行橋市大橋2-22-10

行橋市 豊前市 京都郡(苅田町、みやこ町) 築上郡(吉富町、上毛町、築上町)

〇 田川支局 

田川市中央町4-20

田川市 田川郡(香春町、添田町、糸田町、川崎町、大任町、赤村、福智町)

 

不動産の登記はできても、遺言書の保管できる法務局であるとは限りませんのでご注意ください.なお、「遺言書保管制度」は外国人の方も利用可能ですが、この制度では遺言書の中身をチェックしてはもらえません。外国人の方の遺言は、本国の法律を確認する必要がありますので、できる限り、専門家のチェックをしてもらってから、「遺言書保管制度」を活用してください。

8.制度の中身を見極めて活用を。

 遺言は遺言を書く方の最後のメッセージであり、遺されたご家族の生活にも大きな影響を与える決断とも成り得ます。「遺言書保管制度」はうまく活用すれば、より負担の少ない形でメッセージを託すことができるものとなるでしょう。しかし、新しい制度も万能ではなく、確実性や信頼性においては「公正証書遺言」の方が高いですし、手軽に自由に内容を変えられる点では「自筆証書遺言」の方に軍配が上がります。

 相続のかたちも人それぞれですし、財産の承継にもさまざまな方法がありますので、ご自身の状況にあった方法を選択されることが望ましいです。当事務所は遺言の作成サポートから、検認、相続登記、各種口座の名義の書き換えなどの遺言の執行まで、多くの遺言業務に長年携わっております。ご質問などがありましたら、お気軽にご連絡ください。

なお、費用の目安は以下のとおりです。ご参考ください。

サービスの内容 費用(司法書士報酬)
遺言書の内容チェック      10,000円~
遺言書保管制度の申立てサポート      15,000円~
遺言書作成+遺言書保管制度の申立てサポート      30,000円~