相続法の主な改正点
平成30年7月6日に、国会で新しい民法とその関連法が成立しました。さまざまな方面からの提案をもとに、多くの規定が変更されましたが、少子高齢化が進む日本の現状に対応するために、相続法の規定も改正されています。今回の改正のなかで、相続に関する大きな改正点は以下のとおりです。
今回の新しい相続に関する規定は基本的には2019年7月1日に施行されますが、実は規定によって施行されるスタート日が違います。
主な改正点 | 施行される日付 |
④ 自筆証書遺言の緩和 | 2019年 1月13日~ |
ほとんどの新相続法の規定 | 2019年 7月 1日~ |
① 配偶者居住権の新設等 | 2020年 4月 1日~ |
⑤ 法務局による自筆証書遺言の保管制度の創設 | 2020年 7月10日~ |
たとえば、今回の改正の目玉とも言われる、同居の配偶者の権利を明文化した①配偶者居住権の規定などは、来年4月1日から施行されるため、他の相続法の規定よりも9ヵ月遅れてスタートすることになります。ご注意ください。
自筆証書遺言と財産目録
今回は他の規定に先立って1月13日に施行される改正点、「自筆証書遺言の緩和」についてご説明します。
「遺言」はご自身の死後の財産のあり方などについて記した文書です。このうち「自筆証書遺言」というのは、「自筆で書いた遺言」、つまり、自分自身で「自分の死後は、これはこうしてほしい」などとご家族などに宛てた遺言の形式です。この自筆証書遺言は、今までの民法の下では「全文」「日付」「氏名」を含めてすべてを自筆で書かなければならない、とされていました。一部を手書きして残りの部分をワープロで打った遺言について無効とした判例もあります。
今回の民法の改正では、この「すべて自分で書きなさい」という箇所について修正がなされました。今までは、遺言を書くときに「○○市××一丁目△△番の土地」であるとか「〇×銀行△支店 番号1234567の普通預金」といった財産の内容についても正確に書く必要がありましたが、この財産の記載は長くなりがちでミスをしやすく、書き損じによって遺言の効果が認められないケースもありました。しかし、今回の改正で、遺言書の別紙として提出する「財産目録」については、自筆で書く必要がなくなりました。
また、WordやExcelで作成した財産目録のほかに、不動産の表示を書く代わりにに登記簿謄本を、預金口座の番号を書く代わりに通帳のコピーをつけても大丈夫になりました。これによって、遺言を書く負担は減るでしょうし、書き間違いによるリスクは削減できると思われます。ただし、必ず署名と押印が必要ですのでご注意ください。
今回の改正の注意点
今回の自筆証書の変更にはご注意いただきたい点があります。
① 自筆証書遺言の基本は変わらないということ。
一部がパソコンで作ってもよくなりましたが、それでも自筆証書遺言は「自筆」が基本です。たとえば、「財産目録以外の部分」をパソコンで打ち込んだ文書に署名押印したとしても、その文書は自筆証書遺言とは認められません。
② 財産目録には必ず署名と押印をしておく必要があること。
条文にはっきりとありますが、財産目録には各ページにご署名と押印が必要です。
これらを見落とすと、遺言の効力が認められれない可能性が高いのでお気を付けください。
自筆証書遺言でも専門家のチェックを
自筆証書遺言は、自分一人でも書けるため、誰の目にも触れずに、保管されてしまうことが多いです。もちろん、亡くなった後では書き直しもできません。せっかく書かれた遺言が、要件を満たさないために無効となることは決して珍しくありません。ご自身の最後の思いを確実なものにするためにも、ぜひ私ども専門家の知見を活用してください。