1.もう誰も憶えていない担保が残っている。

 登記記録を確認している際に、古い担保の記録がそのまま残っていると判明することがあります。たとえば、昭和や大正、明治のころの抵当権で、債務者はひいおじいさんの名前となっていて、債権額は「○○圓◯銭」、「米〇俵」などと書いてあっているけども、当時の事情を知る人もすでに亡くなっている・・・。といったケースです。たとえ借金を完済していたとしても、担保の登記記録は自動的に消えたりはしません。抹消登記をしなければ登記記録は残ったままになります。「抹消登記をするのを忘れていた」「抹消登記そのものを知らなかった」「特に支障はないのでそのままにした」などなど、さまざまな理由が考えられますが、こういった、明治や大正、昭和初期に登記されて長い間放置されている担保のことを「休眠担保(きゅうみんたんぽ)」と呼びます。

2.休眠担保を放置するデメリット。

 抵当権の抹消登記は義務ではありません。いつまでに抹消登記を申請しなさいというようなルールがあるわけでもありません。しかし、担保権の抹消登記をせずに放置していると、以下のような、さまざまなデメリットが生じる可能性があります。

  • 銀行などの金融機関の融資が受けられない。
  • 不動産を売却するときに買い手がつかない。
  • 役所の手続きの条件として抹消をお願いされる。
  • 放置し続けると問題が複雑化して費用や手間がかかる などなどです。

3.休眠担保の抹消の方法。

3-1.担保の抹消登記は共同申請が原則

 では、休眠担保を抹消するにはどうすればいいのでしょうか?担保の抹消登記は、原則として所有者(債務者側)と担保権者(債権者側)との共同申請という形式で、以下のような書類を法務局に提出して申請します。 

  • 登記原因証明情報(解除証書、弁済証書など)
  • 担保権についての登記識別情報(権利証、登記済証など)
  • 委任状(司法書士などに登記申請を委任する場合)

 休眠担保であったとしても、不動産の所有者と担保権者が健在の場合には、通常の抹消登記と同様の手続きをします。なお、弁済の日までに権利者や義務者に相続や合併などが発生している場合には、前提として相続や合併による移転の登記が必要ですし、所有者の住所や氏名が変わっている場合には、所有権の登記名義人の住所変更登記が必要となりますのでご注意ください。

3-2.担保権者等が行方不明の場合

 休眠担保の場合、登記記録上の住所で調べてみても、担保権者(債権者)が現在どこで何をしているのか全く分からないというケースがよくあります。そうなると、担保権の抹消登記は基本的には権利者と義務者の共同申請が原則なので、通常の方法では抹消登記ができないことになります。そこで、そのような場合には、

(1)除権決定という裁判上の手続きを利用する抹消

(2)完済した証拠書類と2年分の受取証書を法務局に提出する抹消

(3)供託所にお金を供託をする抹消

(4)通常の裁判手続きで判決を得る抹消

などの方法があります。実務上ではこのうち(3)供託による抹消か、(4)裁判手続きによる抹消の方法で解決することが多いです。

3-3.供託による休眠担保の抹消って?

 休眠担保の抹消をする場合に、実務上でよく活用されるのが、供託所に弁済供託をする方法です。手続きが比較的簡便で、裁判をするよりも安くできる方法ですが、これには以下の要件をクリアする必要があります。

  • 担保権者が行方不明であること
  • 被担保債権の弁済期から20年を経過していること
  • 債権の元本・利息・遅延損害金の全額を供託すること

 なお、この供託の対象になるのは、抵当権や根抵当権、先取特権の登記であり、譲渡担保や仮登記担保、買戻付所有権移転登記、金銭以外の債権で登記されその債権の価格の記載のないもの(「米十俵」など)も供託による抹消には利用できません。

 遅延損害金の計算方法については、法務省のホームページに無料でダウンロードできる「遅延損害金計算ソフトウェア」がありますので、そちらをご利用ください。

参照:遅延損害金計算ソフトウェアのダウンロードについて

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00073.html

3-4.解散した法人である場合の特例

 令和5年4月1日から不動産登記法の改正により、解散した法人名義の休眠担保の抹消についての特例が新しく創設されました。この特例は、

  • 担保権者等が解散した法人である
  • 法人の清算人の所在が判明しない
  • 被担保債権の弁済期から30年が経過している
  • 当該法人の解散の日から30年が経過している

という条件を満たす場合に、供託することなく抹消登記ができるというものです(不動産登記法第70条の2)。

4.休眠担保抹消の費用や時間は?

 通常、担保の抹消の登記は、個人の方が自分で登記されることも多いシンプルな登記です。しかし、休眠担保の抹消の手続きとなるとその内容は複雑になり、費用が数倍になることもあります。また、裁判手続きともなると、抹消完了までに数か月以上かかることもあります。休眠担保の抹消の費用や時間は、担保の内容によって大きな幅がありますので、まずは司法書士などの登記の専門家に相談されて、どのような方法を採るべきかをしっかり話し合い、手続きの前にあらかじめ費用の見積書を請求して十分に内容を確認をしたうえで依頼されることをおすすめします。

 わたくしどもの事務所には長年、休眠担保の抹消の手続きを受託してきた実績があります。古い担保の件でお困りでしたら、矢野・いなほ司法書士事務所(電話 092-721-0236)までご連絡ください。

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